【創作】どでぃくんの憂鬱

俺はどでぃ。東京でコンサルタントをしている。昼食は取らない。夕食は米の量を半分にしている。いわゆる糖質制限ってやつだ。糖質を制限すると脳やら内臓やらの調子が良くなるらしい。東京で生き抜くためには必要な措置だ。

今日はネットの知り合いに会う手はずになっている。忙しい俺のことだから予定を入れるのも一苦労だった。今日はたまたま仕事が早く終わったから良かったものの……まったくネットの連中は暇人ばかりで嫌になる。

金曜日の夜8時。俺は池袋に居る。池袋で飲み会があるからだ。そういえばビットコインがまた値上がりをしている。こんな飲み会よりも俺は仮想通貨を弄りたい。だというのになんで俺は池袋なんかに居るんだ? ほんとネット上の連中は暇人ばかりで嫌になる。

プルルルル

discordで通話がかかってきた。今日会う予定のマニさんからだった。通話の呼び出しに出る。

「どでぃくん? 今日なんやけど集合場所池袋だったっけ? うちは今青山におるんよw」

「は?」

「ちょ、そんな怒らないでな。ちょっと彼女に用があっただけなんよ。だから少し遅れると思うわ。まあ他のみんなと仲良くしといてや。それじゃ」

プツッ

一方的に通話が切られた。こちらが何かを言い返す暇もなかった。どうやらマニさんはネット上の連中が集まるこんな飲み会よりも彼女の方が大事らしい。それはそうか。当然だ。俺はなんで池袋なんかに居るんだ?

マニさんが遅れると知ったら急に外に居るのが寒く感じられてきた。もう冬だ。もっと厚めの外套を着てくるべきだったかもしれない。オフィスは空調が効いてるから軽めの服を着てしまった。そうかもう冬なのか。

今回の飲み会は雑多なものだった。特に参加メンバーが確定している訳ではない。とりあえず集まって飲もうや、というマニさんの一声で決まったものだ。なのにその主催者が遅れるなんてことが許されるんだろうか。段々と怒りが湧いてきた。

マニの他には見沼っていう半ば池沼みたいな奴と、だでぃとかいう俺と似たような名前のやつ(なんでまたネット上のハンドルネームがこんなに似通うことがあるんだ?)、またふったんとかいう社畜と、浦和っていうキチガイが来る予定だ。本当に来るんだろうか?

スマホでTwitterを眺める。タイムラインには今日も意味の無いニュースが流れている。イーサリアムが最高値を示したらしい。まあ分かっていたことだ。現物はすでに持っている。問題はいつ売るかだ。いや、売らずに抱えていても問題は無いかもしれない。イーサリアム自体の使いみちはいくらでもある。

ピコン

Twitterで俺宛に通知が来たとのメッセージが表示された。Twitterの通知欄に新着メッセージを示すバッジが付いている。嫌な予感がする。ふったんからだった。

”申し訳ないんだけど、どうしても抜けられない仕事があって今日はいけなくなった。本当にごめん。今度必ず穴埋めするよ。今回は申し訳ない”

そうなる気はしていた。ふったんみたいな社畜がやすやすと池袋に来れるはずがないのだ。わかりきっていたことだ。

俺は嫌な気持ちに駆られるままに、指の流れで浦和のTwitterページを開く。最新のツイートは3分前だった。

”浦和の家族です。浦和は昨日の夜に他界いたしました。享年31歳でした。生前の浦和を応援して下さっていた皆様、今までありがとうございました”

ふざけたツイートだった。浦和は定期的にこういうツイートをしては消息を断つクソ野郎だ。おおかた今日の池袋飲み会に来るのが面倒臭くなったのだろう。来ていれば腹に一発入れているところだが家に引きこもられたらどうしようもない。

ピコン

今度はdiscordのアイコンに赤いバッジがつく。開いてみると見沼からの連絡だった。

”@dody なんかたてくんが配信してるんだけど"

は?

俺は"どういうこと?“と返信をする。

“いや、たてくんが配信してて「面倒になっちゃったんよ」って言ってる”

“は? てかなんでお前はそれを知ってんの? 配信みてんの?”

“いま仕事場で配信つけて聞いてる”

“飲み会は?”

“仕事が終わらん終わらん”

どいつもこいつもカスだ。俺は池袋に一人ぼっちだった。息が白くなる。Twitterのタイムラインは仮想通貨が史上最高額になったことで盛り上がっている。俺の仮想通貨ウォレットの日本円換算額は高値を更新し続ける。

家に帰ろう。そう思った。家に帰って通貨を売っぱらって利益を確定しよう。そうしないとやっていられない。ネット上の人間はカスばかりだ。そもそもの最初から、こんな飲み会に参加する気になったところから間違っていた。あのときは何かに浮かれていた。こんなんでは仮想通貨でもやらかしちまいそうだ。

discordに"俺は家に帰る"とだけ書いて駅に向かった。途中の道には路上飲みをしている若者が溢れていた。暗がりには吐いている奴も居る。どこもかしこもクソばかりだった。ビル群の合間から一瞬だけ見えた満月はすぐに薄汚れた雲に隠れてしまった。今日も最悪な気分だった。